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初体験だった。珍しく興奮したという。歓声に感謝した。何とか対応してくれた限界に近い体にも感謝した。さらに自分にはこう言い聞かせた。「戦いはまだまだ続く。これで気を緩めるな!これからが勝負だ!」。そう思わないとやっていけないような気がした、という。 守野台(兵庫)の1年生投手・飛浦海斗が瑞泉(西東京)のGSコンビ「S」早瀬将吾に投じたナックルは内側に変化した。いい感じの変化にも見えた。 飛浦にも、これまでにない手ごたえがあった。4回裏に走者一掃の同点二塁打を自ら放ったことで、気分がよかっただろうか。自らを元気づける一打だったからか、5回表、腕や手のひらが、普通に戻ったような感覚があった。キャッチボール投法とはいえ、いい変化のナックルを投げている自信もあった。前の回までとは、ちょっと違うぞ、と思った。まだまだいける。そう思えた。 4回の守備で右肩を痛めた早瀬は、風喜監督にも告げていないことがあった。それは右ひざ、そして右ふくらはぎ、の違和感。いや、そんなものではない。明らかにおかしいと感じていた。 早瀬は高校入学後に本格的に野球を始め、驚異的なスピードで、成長してきた。小さかった体もどんどん大きくなった。おそらく、早瀬の中学2年くらいまでしか知らない人は、今の姿を見て「えっ、あの子が…」と思うはずだ。それくらい変わっていた。そこには、どこかしらに無理があったとしか思えない。 打撃にも守備にも、大きな武器になっていた早瀬の足は、マンモス決勝戦、4回裏のダイビングキャッチを試みた時に、ついに悲鳴をあげていた。もうこの試合は全力疾走ができない、状態だった。でも、それをまだ周囲に悟られたくなかった。肩の異常は監督に話した。リリーフができなくなった以上、しかたなかった。でも、足の異常はあえて、この時、申告しなかった。ギリギリまで、相手に警戒させるために、精一杯、普通に振る舞ったつもりだった。 5回表の打席では決めていた。「一振りにかける」と…。そして全力疾走を必要としない結果を狙った。スタンドイン。それしか頭になかった。早瀬は1打席目も2打席目もホームランを放ったが、それはヒットの延長の当たりだった。だが、今回は違った。本気で3打席連続アーチを狙ったのだ。 ホームランを狙って打つなんて、これまでやったこともなかった。この試合こそ、長打が目立っていたが、もともとの早瀬は中距離ヒッターのトップバッターだ。塁に出て、足でかき回したりするのが持ち味でもあった。安打製造機タイプになるのが目標でもあった。その早瀬が初めてスタンドインだけを考えた。 腹をくくっていた。カウント2−2。次の球を渾身の力でフルスイングすると…。その瞬間だけでもいい。肩や足の痛みを忘れようと思った。何とかなる、と気合で…。 飛浦が投じた5球目のナックルを早瀬は振った。 「海斗! 海斗! 海斗!」 「海斗! 海斗! 海斗! 海斗!」 「海斗! 海斗! 海斗! 海斗! 海斗!」 スタンドの海斗マニアの海斗コールが響き渡る中で、飛浦は投げた。この試合、一番いいナックル。こんな表現でいいだろうか。でも、それくらい飛浦には手ごたえがあった。遊びで会得したナックルで、こんな気持ちになるのは初めてだった。 上半身のいろんなところにあった痛みを忘れていた。同じキャッチボール投法でも、力の入り具合が違うと思った。もしかしたら、奇跡的にヒジ、肩が治ったのではないか。これなら、普通の投げ方でもできるのではないか。いやできるはずだ、と思った。 いろんな人が見えないパワーをくれたのだろう。きっとそうだ。ありがたい。感謝しないといけない。短い時間で飛浦はそんなことまで考えていた。それくらい気持ちよかった。とにかく、いい感じだった。そんなナックルボールだった。 そして歓声とため息。マンモスが…。 |
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