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力があふれてきたような気がした。そうなんだ、と一生懸命、自分に言い聞かせた。肩は重い。でも、まだまだ自分の方がマシなんだから…と。全力で投げることができる。全力で走ることができる。あいつらに比べれば、恵まれているんだ、と考えた。そう思えば、楽になったような気もした。 守野台(兵庫)の1年生投手・飛浦海斗は後を振り返らなかった。じっと前を見た。闘争心をむき出しの表情を心がけた。まだ気持ちはなえていない。まだオレは戦えるんだ。キャッチャーの石陪歩に、そう訴えていた。そうベンチにアピールしていた。 マンモス決勝戦。5−5の同点で迎えた5回表。瑞泉(西東京)のGSコンビ「S」こと早瀬将吾のスイングはきれいな弧を描いた。円月打法、とでも言おうか。白球もまた弧を描き、ライトスタンドに吸い込まれていった。飛浦の内角ナックルをとらえた。 「3打席連続ホームラン!」。 KOSMOS放送の塁沢高次アナは短く、小気味よく、そう叫んだ。 この大舞台で早瀬はまたドデカイことをやってのけた。 瑞泉アルプス席で早瀬の父・達将も驚くしかなかった。幼い頃の将吾を思えば、信じられない。運動系は何をやっても、友だちに負けていた小学校低学年時代。技術よりも知識の方が上回っていたあの頃…。あれから4、5年でこんな姿を見せてくれるなんて夢にも思っていなかった。「野球のおかげだな」。再びちょっぴり目頭が熱くなった。 そんな達将も気がついた。 早瀬はゆっくり、ゆっくりダイヤモンドを一周した。できるだけ普通に見せようとしていたが、父は気がついた。「走りが変だ」と…。 右ひざ、右ふくらはぎを痛めている早瀬はもはや全力疾走はできない。軽く走っても激痛があった。ホームランを打っても、それを悟られないようにすることしか、この時は頭になかった。 初めて狙ってホームランを打った。正直、大まぐれだ。大ヤマを張って、振り抜いただけでもあった。それが当たった。ギャンブルだった。 飛浦にしてみれば、大誤算だっただろう。じゃんけんではほとんど負けたことがない男。読み合いには自信があった。プライドもある。それがヤマカンで打たれた。これ以上の屈辱はない。もっとも、早瀬の3打席目のホームランがヤマカンだったことを、この時、飛浦は知るわけがない。だから、まだよかった。精神的ダメージは、まだ少なかった。これがまだ幸いした。 「将吾、足…」 GSコンビの「G」剣源氏は早瀬を出迎えながら、そう声をかけた。 早瀬はニッコリするだけで何も答えず、ベンチに戻った。そのまま、ベンチ裏に消えた。 剣はバットを持って、ネクストに向かった。こちらも2打席連続ホームランを放っており、次の打席にも期待がかかる。まさに驚異のGSコンビだ。 快音が響いた。 瑞泉2番・田江の打球は三遊間を抜けていった。 「早瀬のホームランに飛浦はちょっと気落ちしたでしょうか」と塁沢アナが実況した。 ナックルが少々、甘く入った。それをとらえられた。 それでも守野台の紀中監督は動かなかった。「まだだ」とつぶやいた。「まだいける」と思った。 マウンドの飛浦は打たれても前を向いていた。田江にヒットを許しても、落胆の色はない。もともとナックルはコントロールできていない。それが甘くなっただけ。打たれて悔やむ前にまず開き直った。それが、体に一番よかった。早瀬の時もそうだったが、ちょっと、指先が腕が、元に戻ってきたような気がしてならなかった。だから飛浦も思った。打たれても「まだいける」と…。 「3番、ピッチャー、剣君」 場内アナウンスが響いた。 それにかぶる形で「1点勝ち越して、なおも無死一塁。バッターボックスには、2打席ホームランの3番・剣が入ります」と塁沢アナも全国のお茶の間にアナウンスした。 満身創痍のマウンドの飛浦を見た。友であり、ライバルでもある早瀬を思った。 「あいつらに比べたら…」。ピッチングで自信を失っていた剣の目が、この時ばかりは生き返った。 |
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