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zoom RSS 第257球

<<   作成日時 : 2008/06/14 03:06   >>

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 海斗マニアの団長・香村瞳は「今こそ、私たちの出番よ!」とアルプス席で「団員」たちに声をかけた。守野台(兵庫)の1年生投手・飛浦海斗が苦しんでいる。「私たちの声で彼に元気を与えたい」。そう思った。これまでだって、声を張り上げてきたのに、この時はさらにそう思えてならなかった、という。




 「海斗! 海斗! 海斗!」


 「海斗! 海斗! 海斗! 海斗!」


 「海斗! 海斗! 海斗! 海斗! 海斗!」…。




 マンモスに大音響だった。しかし、マウンドの飛浦は正直、この声にも気づいていなかった。こんなことも初めてだった。とにかく、その時は他に何も考えられなかった。「指が…」。ただ心の中でそう叫んでいた。心の中は自分の声しか聞こえなかった。表向きの顔はきっと普通だったと思う。必死にそうしていたから…。でも心の中の顔は、引きつっていた、と思う。


 5回表、瑞泉(西東京)GSコンビの「S」早瀬将吾に3打席連続ホームランを許し、1点勝ち越された。4回裏の一挙5点で同点に追いついたのも束の間、またまたリードを許してしまった。点を取ったら、すぐ点を取られる。守野台にしてみれば、よくない展開だ。だが、打たれても飛浦はへこたれなかった。前を向いて、次打者と対峙した。ヒットと盗塁で、なおも無死三塁にしてしまったが、3番のGSコンビ「G」剣源氏を気合の投球で空振り三振にしとめた。ナックルを繰り出すキャッチボール投法を普通の投法に戻して、成功した。「いける!」と思った。続いて4番打者の坂芽もキャッチャーフライ。ツーアウトにしたのだが…。



 振り返れば、異常はその坂芽をうちとった球からだった。この時、右手薬指がちょっと、浮いた感じがした。5番白薔薇の時は中指がふわっとした感じになって、コントロールできずに死球を与えた。そして、6番・経谷の時は人差し指が…。またまた死球だ。




 打席では7番・紀河がもう構えていた。飛浦は慌てて、いつもの儀式からスタートした。両手を交差させた際の右手の指の感覚は最悪だった。捕手・石陪歩のサインはストレート。これにうなずき、投球動作に入ったが、不安いっぱいだった。



 投じた球はワンバウンドした。石陪が、その球をおさえた。威力も何もない、ただのボールといった感じの球だった。それでも飛浦は手が滑ったような顔をして、石陪に「すみませんポーズ」をした。だが、石陪も、わかっていた。「これはおかしい」と…。



 守野台・紀中監督も石陪と同じ気持ちだった。そして、もう一度、ブルペンを見た。「もう限界だ。交代」。そう考えて動こうとした。ところが、なぜか、躊躇してしまった。大量失点を防がなければいけないのに「もう1球だけ」と…。



 紀中監督に、そう思わせたのは、スタンドの大声援だったのかもしれない。とにかく、この時の海斗コールはすごかった。それが「代えないで!」の叫びにも聞こえたのだろう。



 ワンバウンドの球を投げてから、飛浦は腹をくくった。薬指、中指、人差し指。すべて、おかしいと感じた。もう開き直るしかない、と思った。無造作に自分の右腕に思いっきり、かみついた。血が出るほどに、かみついた。「痛!」
。そう思って、また開き直った。そして、自分の耳にも聞こえてきた。スタンドの海斗コールが…。



 この声に飛浦はこれまで、何度も助けられた。応援が励みとなり、パワーになった。それをもう一度、思い出した。心の中で「さっきは申し訳ない。ごめん、聞いてなかった。聞こえていなかった」とスタンドのファンに頭を下げた。それから、いつもの儀式に…。



 石陪もあえて、ベンチを見なかった。飛浦の目が生き返ったように見えたからだった。絶望的なワンバウンド投球だったにもかかわらず、ファイティングポーズを感じたからだった。「かいとB! 思い切って投げ込んで来い!」。そんな気合でサインも出したつもりだった。



 口元を引き締めて、飛浦はまたもや振りかぶった。全神経を指先に集中しよう、と思った。「力を貸して欲しい」と願った。「このバッターを何としても抑える!」と奮い立った。



 ボールにちゃんとかかっていたかは、わからない。気持ちで投げた。まさに「えいっ!」と投げた。




 球速はマンモスに表示されなかった。おそらく、130キロに届いていなかっただろう。コースはど真ん中。飛浦の魂がこもったボールだったのだろうが、悲しいかな、棒球にも見えた。



 そして、この球を紀河は見逃さなかった。ど真ん中の球をジャストミートした。




 センター返し。



 強烈な打球が、何と飛浦の顔付近に…。



 「海斗! 海斗! 海斗!」


 「海斗! 海斗! 海斗! 海斗!」


 「海斗! 海斗! 海斗! 海斗! 海斗!」…。



 鳴り響いていた海斗コールが、この時は悲鳴のようにも聞こえた…。

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