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zoom RSS 第264球

<<   作成日時 : 2008/08/02 00:58   >>

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 思い出していた。ここまでの道のりを…。いろんなことがあった。つらいことも、楽しいことも…。雨が上がり、強烈な日差し。体感温度はさらに上がった。立っているだけで汗がふき出した。マウンドに、その汗が落ちるのもわかった。暑かった。だが、ここまでを振り返れば…。「もうオレは逃げない!」。また、そう思った。




 守野台(兵庫)の2番手投手・椿直広が投げた直球は、それほど驚く球ではなかった。外角低めに、きっちりコントロールされていたものの、ボールそのものの威力もあまり感じさせなかった。



 それでも決勝戦のマンモスのスタンドはざわざわしていた。相手・瑞泉(西東京)ベンチは面食らった感じだった。打者・東乃はキョトンとした表情で、そのボールを見送っていた。




 2球目も東乃はタイミングを狂わされ、一塁方向へファウル。大したボールではないのに、当てるのが精一杯だった。




 「ナックルボーラーの次は、これかよ」。東乃はバッターボックスでつぶやいていた。キャッチボール投法が繰り出す守野台の1年生先発投手・飛浦海斗のナックルに、2打席連続でセカンドゴロに倒れ、手をやいていただけに、なおさら、そう思ったのだろう。この椿についても「好きなタイプじゃないな」と…。




 椿の特徴は、その投球フォーム。 それはエース・太薙原のアドバイスによるものだった。







 その年の冬、太薙原は何としても、自分の次の投手を育てたいと思っていた。育てないといけない、と思っていた。同時期にスーパートレーナー・欅重次郎と出会い、ヒジや肩の問題は、この後、解消されていくのだが、この時はせっぱつまっていた。



 連投はまず無理。回復が遅い体のことを考えると、今年もまた夢のマンモス切符が遠のいてしまう。太薙原は焦っていた。守野台・紀中監督からは「4月になったら、有望な1年生投手が入ってくるから」と言われたが、未知数の新1年をアテにするのは危険と思った。



 その頃だった。部員の中から椿を育てようと思ったのは…。同級生の投手候補よりも、1学年下の椿に魅力を感じたのは、コントロールのよさだった。とにかく、キャッチャーの構えたところを外さない。それが気に入った、という。



 太薙原は紀中監督に「椿を練習パートナーにしてほしい」と申し入れた。椿は大エースからの指名に小躍りした。「よろしくお願いします」。うれしくてたまらなかった。



 そこから、太薙原、椿コンビによる特別練習もスタートした。全体練習が終わった後に、2人は別の場所に行き、汗を流した。内容はかなりハードなものだった。太薙原が欅のマッサージを受けに出かけるときだけが、椿に許された自由時間だったのかもしれない。だんだん、椿はその時間が来るのを待ち遠しく感じ始めるのだが、最初の頃は「プロも注目する太薙原さんに教えてもらえるんだ」と、とにかく夢心地で練習に励んだ。




 しかし、そんなに甘くはなかった。太薙原は当初、「椿なら、体をもっと作れば球速もアップするはず」と安易に考えていたが、2ヶ月、3ヶ月が経過しても、大きな変化はなかった。 期待の新1年生投手に故障が発覚しただけに、紀中監督も椿の成長に期待したが、光るものを見せられずにいた。ただ体が、たくましくなっただけだった。



 それでもハードな練習は続いた。5月、6月…。コンビの練習だけはずっと続けた。太薙原は「欅マジック」で体に自信をつけたが、椿は、もうひとつ前に進めないまま…。



 夏の予選には2番手投手がほぼ空席の状態で突入した。この時はまだ1年生・飛浦海斗が救世主的な存在になるとは、誰も思っていなかった。そして、椿もまだまだ中途半端な状態で夏を迎えていた。違っていたのは7月から投球フォームの改造に取り組んでいたこと。キャッチボールでふざけて、その形で投げたとき、太薙原が「それはピッチングでも使えるんじゃないか」と言い出した。「何もやらないよりは、何かにチャレンジしてみよう。お前はコントロールはいい。そこに、もうひとつ、武器が欲しいだけなのだからな」と…。




 ちょっと恥ずかしかったが、椿は太薙原を信じて、改造をスタートした。奇跡だった。意外としっくりきた。紀中監督もそれを見て「打者一回りくらいなら、それでもいけるかもな」と思ったという。



 予選の太薙原が絶好調だったことと、できれば独特な「キャラ」の椿はぎりぎりまで隠したい、との紀中監督の考えで、出番はなかったが、準々決勝くらいまでには、何とか登板のメドが立つほどまでのモノにしていた。そして、まさかの太薙原不在となった兵庫県予選決勝でも本来なら、飛浦ではなく、椿が投げるハズだったのだが…。







 マンモス決勝戦。6回表。瑞泉・東乃はキャッチャーフライを打ち上げた。「ナイスピッチング!」。ベンチから太薙原が大きな声で椿をたたえた。




  カクっ、カクっ、カクっ…



 この表現が一番マッチしているかもしれない。椿の投球フォームはぎこちなく、すべての動きが何となく角張っていた。でも、それが打者には何とも…。



 瑞泉の9番打者・昭和も1球目は見逃した。やはり、やりづらそうだった。



 「監督、いけますよ、椿のロボット投法は…」。太薙原が、うれしそうに、そう言った…。


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