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zoom RSS 第281球

<<   作成日時 : 2008/11/30 02:39   >>

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 マンモスのスタンドが揺れた。守野台(兵庫)サイドからは「あと1球」コールが何度も何度も…。瑞泉(西東京)サイドからは「早瀬」コールが、これまた何度も何度も…。雨上がりの空の輝きが増した。灼熱の夏の空。グラウンド上の体感温度はいったい…。球場全体が熱く、熱く…。



 KOSMOS放送の塁沢高次アナウンサーはまさに夢中になって実況していた。いつのまにか、声はかれてきており、プロとしてはやばい状況。でも、きっとお茶の間の視聴者も、この時は気にならなかったのではないか。かすれ声ぐらいの絶叫がちょうどよかったのかもしれない。普段は結構、絶叫実況に抗議が多かったそうだが、この時はほとんどなかったという。



 「7−6。守野台1点リードで迎えた9回表はツーアウト、カウント2−1。太薙原が振りかぶったぁ!」



 守野台のエース・太薙原紘一は6回二死からマウンドに上がり、ここまで驚異の9連続奪三振。とてつもない投球を続けていた。県予選準決勝の夜に「アクシデント」に見舞われ、入院生活を余儀なくされた。まっすぐ歩くことさえもできない状態が何週間も続いただけに、体の回復ぶりも驚異的だった。スタンドで見守る看護婦の愛埜望も信じられない気持ちだった。「紘一君、頑張って」。どれだけ三振をとっても、ずっと祈るような気持ちだった。



 打席の瑞泉1年生GSコンビ「S」早瀬将吾は肩、足、ともに痛めており、もう限界を越えていた。すでに、この打席で二振りし、いずれもファウル。苦しかった。「もってくれ」。自らの体に、そう祈っていた。スタンドの父・達将も、そんな息子の「異変」に気がついていた。マンモスの決勝の大舞台で3打席連続ホームランを放った息子を誇りに思い、感謝するとともに祈った。「将吾! 頑張れ」。




 真一文字に足をあげる太薙原の独特な投球フォームが光輝いた。左バッターボックスの早瀬がグッと力を込める。



 カウント2−1からの4球目。太薙原が投じたボールは内角に来た。ストレートではない。微妙に内側に動くボール。早瀬が待っていた球だった。



 瑞泉ベンチではGSコンビ「G」の剣源氏も力が入っていた。太薙原が投げた瞬間に「来た!」と思った。早瀬なら何とかすると思った。何とかしてくれる、と信じた。同点ホームランをも…。




 剣同様に早瀬も思った。「来た!」と。6回の打席で空振り三振を喫したボール。同じ失敗は繰り返さない。ちゃんとインプットされていた。反省、教訓は即座に…。



 もっとも太薙原も早瀬がそのボールを待っている、とわかっていた。そう予測していた。カウント2−1から4球目にこの球を投げるのも予定通りだった。



 そして…。



 「あーっ!」。塁沢アナがかすれ声で叫んだ。




 マンモスがまた揺れた。



 早瀬のバットがまたしても止まっていた。打ちにいきながら、またしても動きを止めていた。それどころか、体を大きく反り返らせた。



 「ボール!」



 内側に動くボールは「ボール球」だった。それも、体をそらさないと当たるようなボールになっていた。




 「今の球は…」。塁沢アナがこう言った。ここまでに太薙原は早瀬と剣に「動くボール」を投げていたが、塁沢アナはここで初めて気がついたらしい。それまでは同じストレートと思っていたそうだ。それくらい微妙な変化だったのだが、この時は明らかに…。




 一塁を守る椿直広は太薙原との秘密練習で、このボールを何度も受けていた。「先輩はやっぱり…」と思った。プロレベルを改めて感じていた。



 早瀬は頭の中を整理していた。変化の大小があった動くボール。今の球は「ボール」と判断できたが、次は…。




 守野台の捕手・石陪歩は早瀬の迷いを察知した。そして思った。「この勝負、もらった」。




 カウント2−2からの5球目は外側に動くボールと決まっていた。7回に剣を空振り三振にうちとったボール。そして、今度は…。





 早瀬もそう思っていた。あと1球、太薙原はボール球を投げられる。だから、おそらく…。腰のところに手をやった。念じた。改めて「頼むぞ、俺の体」と心の中で…。




 「将吾!」。剣がベンチから声をかけた。



 早瀬はその声に振り向き、微笑んだ。いつものことだった。「任せとけ!」という意味のつもりだった。




 かすれ声の塁沢アナがまた叫んだ。



 「太薙原、早瀬への第5球目を投げましたぁ!」




 両軍ベンチから大きな声が飛び交った。




 「早瀬!」



 「太薙原!」
 

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