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zoom RSS 第292球

<<   作成日時 : 2009/02/16 01:23   >>

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 これまではなかなかできなかった。それを吹っ切った。思い切り、自らを加速させた。後ろは振り返らず、とにかく前を見た。前だけを見た。信じた。自分を信じた。いつか必ず好結果が生まれる。いつか必ず、自分が納得できる成功がついてくる、と…。きれいごとでいい。情熱がそうさせていた。




 マンモス大会期間中に東東京代表・真極学園の4選手(毛利拓馬、荒堀浩二、高杉賢明、古城直人)に大会終了後に行われる日米親善野球の代表チーム入り要請が来た。大伴監督は「うちは3回戦で、あんな形で負けたのに、ここまで評価していただくとは…」と喜んで選手に伝えた。


 だが、選手たちの反応は予想外だった。両アキレス腱断裂の毛利の辞退はともかく、他の3人までもが揃って拒否するとは…。



 高杉賢明は、その連絡が入る前に決断していた。兄の神奈川マジック・高杉明太郎に打ち明けていた。もしも、その前に連絡が入っていたら、代表メンバーの道を選択していたかもしれない。でも、決めた以上は「出る立場ではない」と…。



 明太郎はその話を聞いた時、「何!」と驚きの声をあげてしまった。しかし、すぐに冷静なふりをした。「なぜだ! どうしたというんだ!」。そうたたみかけて、踏みとどまらせたかったが、それも我慢した。賢明の真剣な表情を見ると、言えなかった。



 「自分で選んだ道を歩いて見たい」。それが賢明の最大の主張だった。




 幼い頃の賢明は親の年ほども離れた兄・明太郎に野球をやらないことで反発した。有能な兄と比較されるのが、とにかく嫌だったからだ。中学に入ると、卓球部に入った。気がつけば入っていた。だが、それも兄に操縦されていたことが、後になってわかった。高校になって真極学園の野球部に入ったのも、兄が自分の性格を見抜いて、うまく導いていたことも…。



 そのわだかまりは、もはやない。真極学園で一から真剣に野球に取り組んで、むしろ、兄を尊敬したし、誇らしく思った。比較されることなんて、どうでもいい。少しでも偉大な兄に近づきたい。そう思って、野球に取り組んできたつもりだ。練習に練習を重ねた。人より、練習したと思っている。1年生の頃はレベルの違いを感じた仲間たちに追いつくためには、そうするしかなかった。そして兄のビデオも何度も見て研究した。2年生になって急成長し、大伴監督の秘密兵器・四天王の1人にもなった。兄譲りの打撃センスはプロのスカウトからも注目されるほどになった。マンモスでは愛知・にしき水惣の怪物エース・結城亮に封じ込まれたが、その対決でも十二分に潜在能力の高さをアピールした。



 そんななか決めた。3回戦敗退後、賢明は明太郎に電話を入れて「一度、会って話がしたい。聞いて欲しいことがあるんで…」と頼んだ。そして、マジックの練習オフの日に久しぶりに実家で会うことになった。



 明太郎の部屋で話をした。昔の賢明が決して入ろうとしなかったところだ。




 「高校を中退して、アメリカに行こうと思う。知り合いが向こうにいるので、あっちではバイトしながら、やっていきたい。野球は向こうで続けようと…」



 明太郎はいったん、この段階で驚きの声をあげていた。



 米国に知り合いがいるなんて初耳だった。これまで苦労知らずで生活してきたのに、バイトでやっていけるのか、しかも異国の地で、と思った。でも、賢明の目はマジだった。その目力に明太郎は何も言えなかった、といっていいのかもしれない。



 1人でやってみたい。賢明の目は強く訴えていた。「ずっと決められた道を歩いてきたので、次は自分で道をつくってみたい」とも言っていた。野球の本場・米国にはプロ野球リーグの最高峰「スペース・ファングスリーグ」がある。賢明は「メジャーリーガーになるのが夢」ともはっきり言った。明太郎も経験していないメジャーの道こそ、自力で歩める場所だと思ったそうだ。



 話をしはじめてから3時間が経過した。いっぱい話をした。野球のこともプライベートなことも何でも…。兄弟ながら、これだけ打ち解けたのは初めてだった。



 明太郎は賢明をとめなかった。「後悔はしないな」と念を押しながら、協力を約束した。




 大伴監督が賢明からその話を聞いたのは、代表メンバー入りを伝えた時だった。「考え直せないか」と言った。何度も、何度も言った。だが、賢明の決意は変わることはなかった。



 9月になって賢明は真極学園を中退した。グアムに向かう古城直人同様、すごいスピードで決まった。決められたレールを初めて外した賢明は、さわやかな表情で米国に旅立っていった。



 そう言えば、レールを外したといえば…。アンドロメダ的秋、また別のドラマが始まろうとしていた。




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