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zoom RSS 第296球

<<   作成日時 : 2009/03/16 02:44   >>

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 北斗星大の学生たちが3人、スタンドで慌しく動いていた。新たにビデオカメラがセッティングされていた。「先輩に頼まれたのか」「いや、監督がとっておいてって。後で先輩にプレゼントするらしい。記念にね」。そんな話をしていた彼らが「おいおい先輩って左ききじゃなかったっけ」とざわつき始めた…。



 海流清大戦に6回から登板したのは北斗星大4年・日向太良だった。この試合が初登板。そして最後の登板だった。太良は代議士の父・元輔から、子供の頃から、その後継ぎの座を2つ上の兄・則之と争わされていた。野球はリフレッシュのためにやり始めた。「何か体を動かすこともやるように」との父の命令によるものだった。就職先も決まった。いよいよ兄との対決が最終決戦シリーズに突入だ。太良も気を引き締め直していた。だが、正直、このまま決められた人生でいいのか、とのもやもやもあった。それを打ち消すためにも、吹き飛ばすためにも野球にもけじめをつけよう、と思った。



 4部リーグ最下位の北斗星大とはいえ、野球の練習が片手間の太良がレギュラーになれるほど、甘いものではない。ここまで試合に出ることはなかった。それを最後の最後で下田監督を拝み倒した。チームメートにも頭を下げた。その結果、投手として1イニング、打者として1打席を許された。まぁ、みんな、太良の環境をよくわかっていたので、許すも何もなかったのだが…。



 太良はグラウンドに出られない時も深夜に体を動かしたりはしていた。バッティングセンターなどが主な練習場だったが、もともと運動神経はよかっただけに「それなりにはできる」との自信もあったという。



 出番は6回表にやってきた。「じゃあ日向、悔いがないようにな。精一杯、頑張って来い!」。下田監督にゲキを飛ばされ、太良はうれしかった。ありがたかった。「はい!」。子供のように大きな声で返事をして、マウンドに向かった。



 途端に監督もナインも、スタンドの下級生も「あれ? あれ?」って感じの顔になった。太良が右から投げ始めたからだ。食事の時も字を書く時も、キャッチボールでも、さらに言えば直前のブルペンでも左で投げていたのが、突然…。




 太良は平然と投球練習を続けた。普通に右から投げていた。左利きの姿を知らない人は別に違和感もなかっただろう。



 初球、ど真ん中のストレートだった。「ヤバっ」。投げた瞬間、太良は思った。球速は127キロ。いい当たりが外野に飛んだ。だが、幸運にもレフトの真正面。痛烈なレフトライナーだ。



 2人目の打者にはボールから入った。125キロのストレート。外角の球を打者は見送ってくれた。2球目もボール。投げた瞬間にボールとわかる球だ。123キロのストレート。



 海流清大の投手・雷藤を見に来たソニックの火牙スカウトはこの日向の投球を何気なく見ていた。コントロールももうひとつだし、ボールのキレもイマイチ、スピードもプロレベルからすれば物足りない。そんな感じだったのだから無理はない。



 3球目は再びど真ん中のストレート。これまた快音が響いた。またまたレフトへ飛んだが、定位置から2、3歩左へ行く程度。強烈なライナーが続いたが、これでツーアウトだ。



 「いい当たりだけど、この辺が打者のレベルもなぁ…」なんて火牙は思いながら、見ていると、再び学生たちが…。




 「先輩も魅せるねぇ」


 「最後だから、何でもやるってことじゃないの」




 スタンドにいたアンドロメダの面々は苦笑いしていた。



 「スイッチピッチャーなんですね。彼は…」と北海道担当調査員の架嶺雄大も笑みを浮かべながら…。



 太良は左手にはめていたグラブを無理やり、右手にはめた。きれいに入るわけがない。でも普通にはめた。慣れた感じで、打球をちゃんと処理できるのかどうかはともかく…。



 そして…。



 「何っ!」



 6回表二死。太良の左での「第1球」はとてつもない球だった。


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