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zoom RSS 第276球

<<   作成日時 : 2008/10/27 03:25   >>

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 守野台(兵庫)の2年生・椿直広は、あの時のことをよく覚えている。同時に後悔している。あの日、あの時間に、なぜ、自分は…。もしも、いつも通り、秘密練習場に向かっていたら、あんなことにはならなかったかもしれないのに…、と。それだけに、今、この時が、マンモスの同じグラウンドにいることがうれしかった。



 「何?」



 瑞泉(西東京)GSコンビ「G」剣源氏はバットを持ったまま、立ち尽くしていた。




 7−6。守野台1点リードで迎えた7回表、瑞泉の攻撃。一死走者なしで、打席に入った3番打者・剣は同点ホームランをイメージして、プロ大注目の神戸の豪腕・太薙原紘一に向かっていった。



 カウント2−0、と追い込まれたものの、3球目はど真ん中。タイミングばっちりで剣は振りぬいたつもりだった。それが空振り三振だ。




 「ボールが動いていた」



 ベンチに戻って剣はGSコンビの「S」早瀬将吾にそう話した。



 早瀬もわかっていた。「だろっ」とだけ答えた。




 「でも、内側に、じゃなかったぞ」と剣がいうと、早瀬は「みたいだな」。わかっていた。




 「やっぱり、あのピッチャーは普通じゃない」。二人ともそう思った。




 剣への3球目はボールが外側に動いていた。しかも鋭く…。早瀬への3球目も剣への3球目もストレートではなかった。事前のデータにないボールだった。そして、太薙原はその2球以外はオールストレートで投げ込んでいた。データにあったスライダーはまだ1球も投げずに、そんな攻め方をしていた。




 「ストライク!」



 球審のコールばかりがマンモスに轟く感じだった。4番打者のキャプテン・坂芽はあっという間に追い込まれ、3球目は外角低めにズバッ。こちらには全部ストレート。手も足も出なかった。




 7回表、瑞泉の攻撃は3者三振に終わった。いずれも3球三振。太薙原はたった9球でゼロに封じ込んだ。ネット裏のプロスカウトたちもざわついている。お互いに感想を述べ合っている。もちろん、絶賛の声であるのは間違いない。「もう体は大丈夫みたいだな」。改めて、そんな声も飛び交った。




 ベンチに走る太薙原に椿が追いついて「先輩!」と笑顔で声をかけた。太薙原は表情をあまり変えることなく、うなずきながら、走った。



 紀中監督はそんなエースを拍手で出迎えた。「体は大丈夫か」と声をかけるのも忘れずに…。



 太薙原はそのままベンチ裏に向かった。それから通路のベンチに腰掛けて、上を見た、下を見た、左を見た、右を見た。なんともなかった。あの時とは違って、平気だった。







 秘密練習を行っていた公園横の路地で見つけた不審な黒い影。そして、その前を歩く明るい声の女子学生。飛び出した太薙原は声を荒げていた。


 「お前ら!」



 この時初めて、女子学生がチラっと振り返った。だが、その時はもう…。



 太薙原の声と同時に黒い影は動きを変えた。一体は女子学生を通り越して、走り去った。一体は右方向の公園に入っていった。一体は左方向のさらに狭い路地に向かった。そして、残る一体は止まって太薙原を待つような構えを見せた。



 前方には少し大きな通りがあった。女子学生を追い越した男は止まっていたワゴン車に乗り込んだ。この間、1分もなかったと思う。女子学生は「何事かしら」ってな顔さえせずに、そのワゴン車の方向に歩いていった。



 それから太薙原を待ち構えていた形の一体が、そのワゴン車の方へ向かって、再び走り出した。太薙原も追いかけた。



 女子学生がワゴン車のところにたどりついたとき、車が動いた。一体の黒い影も、そこに追いついた。「やめろ!」。太薙原はそう叫んでいたようだ。




 次の瞬間だった。道路に出た太薙原を光が襲った。まぶしかった。体がとっさに反応した。まさに一瞬の出来事だったようだ。




 そして、気がついたら、そこは病院のベッドだった。

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