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zoom RSS 第285球

<<   作成日時 : 2008/12/22 04:24   >>

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 マンモスのグラウンドでは表彰式後の選手たちの行進が続いていた。スタンドからは両チームをたたえる拍手が鳴り響いた。決勝戦の主役たちのうち、数名はその場にいないのが残念だったが…。瑞泉(西東京)GSコンビ「G」剣源氏の目からは再び涙がこぼれた。守野台(兵庫)椿直広は放心状態のまま歩いていた…。




 瑞泉コール、守野台コールが交互に続いた。大声援だった。それが剣の胸に響いた。自然とGSコンビ「S」早瀬将吾の顔が思い出された。「将吾…」。心の中でつぶやいた。「任せとけ!」という感じの顔で打席に向かう姿が見えた。あの5球目の直前の顔が…。もう我慢できなかった。試合直後も大号泣し、かれていたはずの涙が再び…。「なぜ、こんなことに…」「あんなに頑張ってきたアイツがどうして、こんな目に…」。考えれば考えるほど、泣けてきた。表彰式の間は懸命にこらえたつもりだったが、終わったと思った瞬間に、もう…。



 そんな剣とは対照的だったのが、椿だ。マウンドに倒れたエース・太薙原紘一の顔が、予選準決勝の夜に見た顔と同じに見えたのが、とにかくショックだった。あの時も、今回も、太薙原を助けることができなかった。それが悔しくて…。準決勝の夜は、もう少し早くいつもの場所に行っていたら、今回だって、体調の異変に気づいてあげることができていたら…。そう考えた後のことは、正直、もう覚えていなかった。表彰式の間もずっと、ボーっとしていた。ナインから声をかけられても、答えていなかった…。




 西宮市の某病院ロビーのテレビで守野台の1年生投手・飛浦海斗は、そんな椿の気持ちを思いやっていた。太薙原と椿の絆の深さを知るだけに、画面に映った椿の顔を見ながら、つらかった。「あの場面ではしかたがないよ、椿さん…」。そう思った。



 守野台アルプス席に陣取る海斗マニア団長の香村瞳は「守野台!」と連呼しながら、泣いていた愛しい飛浦がグラウンドにいてくれたら、と思った。あの痛々しい姿でナックルボールを投げ続けた姿、限界ギリギリの体で貴重な一打を放った姿が思い出された。そして、海斗不在になってからのまさかのアクシデント…。いろいろ考えると、もう涙は止まらなくなっていた。




 「早瀬選手と太薙原選手の情報は入り次第、お伝えします」



 KOSMOS放送の塁沢高次アナは表彰式の間も、それが終わってからも何度も、この言葉を繰り返した。かすれた声で何度も何度も…。





 しかし、放送中に情報が入ることはなかった。




 首都タイムズのアマチュア担当記者の樹鞍諒一は病院に追いかけた後輩記者に電話を入れた。「どんな状態なんだ」。そんなすぐに「答え」が出るわけがない、と思っていても、これまた何度も何度も…。




 飛浦海斗は慌てて移動していた。



 「飛浦君、太薙原君はどんな状態? あっ、君の状態は…」




 病院に押しかけてきた顔なじみの記者たちに見つかってしまかったからだ。




 「すみません、何もわかりません」。そう言って急ぎ足で立ち去った。まぁ、本当に知らないのだから、そう言うしかないのだが…。






 マンモスのプレスルームで樹鞍はパソコンのキーボードをたたいていた。東京本社のデスクとの打ち合わせを終えたばかり。気持ちを落ち着かせて、決勝戦の原稿作成に入っていた。GSコンビの名付け親との縁もあって、試合前から瑞泉モノを書くことは決まっていたので、それを…。もちろん、独自ネタはふんだんに入れるつもりだったが、その前に、もう一度、試合のシーンを思い浮かべ、試合後取材のメモをチェックしながら…。







 7−6。守野台1点リードで迎えた瑞泉9回の攻撃は二死一、二塁。あのアクシデント直後、マウンドに上がった椿は2番・田江をストレート四球で歩かせ、バッターは剣。





 冷静さを取り戻せない椿が剣に投じた初球は、ど真ん中の棒球だった。剣が見逃すわけがない。早瀬の分まで思いっきり振った。「絶対負けない」の気持ちを乗せて…。打球はライトスタンドめがけて飛んでいった。
 

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